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東京高等裁判所 昭和38年(ナ)13号 判決 1966年6月20日

原告 渡辺権一 外二名

被告 新潟県選挙管理委員会

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「一、昭和三十八年四月三十日施行の新潟県北蒲原郡聖籠村村長選挙に関し、原告渡辺権一、同伊関多一郎がなした選挙無効の審査申立について被告が昭和三十八年七月二十七日附でなした申立棄却の決定を取消す。二、昭和三十八年四月三十日施行の新潟県北蒲原郡聖籠村村長選挙はこれを無効とする。三、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として

一、原告等はいずれも昭和三十八年四月三十日施行の新潟県北蒲原郡聖籠村村長選挙の選挙人であるが、原告渡辺、同伊関は、右選挙が無効であるとして昭和三十八年五月二日聖籠村選挙管理委員会に対し異議申立を行つたところ、同委員会は同月十三日右申立を理由がないとして却下した。

よつて右原告両名は同月十四日被告に対し本件選挙の効力に関する審査の申立をしたのであるが、被告は同年七月二十七日右審査の申立を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書は同月三十一日右原告両名に送達された。

二、然し以下に述べる理由により被告のなした右棄却決定は誤つており、本件選挙は無効である。

(一)  本件選挙に関する聖籠村選挙管理委員会の告示は第一号から第二十一号に至る番号を付されてなされているが、うち告示第六号ないし第十四号は昭和三十八年四月二十三日付、同第十五号ないし第十七号は同月二十五日付、同第十九号及び第二十号は同年五月一日付といずれも同一日に出された告示であつても一連番号を付している。然るに投票所の告示のみは、第十七号ないし第十八号告示と同一日付であるのに拘らず第十七号の二という枝番号によつてなされている。もつとも告示第十八号が右と同日にすでに出されてしまつていたのであれば、或は枝番号がつけられることもあり得るかも知れない。然し告示第十八号は同年四月三十日付の投票所の変更告示である。然も告示第十七号は、投票所における候補者名の掲載順序のくじを行う日時、場所に関するものであつて、投票所の設置に関する告示第十七号の二との間には枝番号によつて表示さるべき必然的な関連はないのである。かような事実は、本件選挙における投票所の告示が適式に行われず少くとも前記第十八号の告示がなされた同年四月三十日(本件選挙の投票日でもある)以後に日付を遡らせ枝番号を付してなしたものであることを物語つている。このように本件選挙の投票所の告示は適法になされなかつたものであつて、かような手続上の重大な瑕疵に基いて施行された本件選挙は、その不公正が顕著であつて無効とさるべきである。

(二)(イ)  聖籠村選挙管理委員会は、本件選挙において第七投票区(次第浜地区)の投票所を亀代小学校次第浜旧分校に設ける旨の決定をなしていたに拘らず昭和三十八年四月三十日の投票日には右投票所において投票が行われず、投票所でない聖籠村大字次第浜所在次第浜公会堂において行なわれた。右は公職選挙法第四十六条に違反するものであつて選挙の結果にも当然影響を及ぼすものであるから、右第七投票区における投票は無効というべきである。なお右法律違反は故意になされたものであるが、仮りに過失によるものとしても、その無効であることには変りがない。

(ロ)  もし右公会堂での投票が前記聖籠村選挙管理委員会において投票所の変更をしたことによるものとすれば、右変更手続は公職選挙法第四十一条第二項による正当な理由と手続に従つてなされたものではなく、何ら正当な理由がないのに前記村選挙管理委員会が擅に正当な手続を経ないでなした違法のものである。法が投票所の変更に対し厳格な規定を設けているゆえんは、先ず選挙民に投票所を周知徹底せしめ参政権の行使に遺漏なきを期せんとするにあることはいうまでもないが、投票所の恣意的な変更が特定の候補者に対し決定的な利益、不利益をもたらすおそれを生ずるものであるから、かかる不正の事態の発生を防ぐため投票を広く一般国民の監視の下に置かんとする趣旨をも有するものである。投票所不変更の原則は、実にこのような公正な選挙の担保という重大な意義を有するものであつて、旧衆議院議員選挙法の下においては投票所の変更は絶対に許されなかつたことからみても明らかなところである。故に公職選挙法第四十一条に違反して変更した投票所で行なわれた第七投票区の投票は当然選挙の結果に影響を及ぼす違法があるから無効とすべきである。なお右の法律違反は故意になされたものであるが、仮りに過失に基くものとしても右投票の無効であることには変りはない。

(ハ)  前記次第浜公会堂における投票手続は、選挙人が選挙人名簿に登録されている者であるかどうか、及び選挙人本人であるかどうかについて対照及び確認の手続が行なわれなかつた。右は公職選挙法第四十四条、同法施行令第三十五条第一項に違反するものである。投票が選挙人本人によつて行なわれるかどうかは、選挙の最も基本的な要件であつて、これについて対照、確認の手続を経ないで行つた投票は、替玉投票、二重投票の行なわれた疑いを免がれないもので、その違法は当然選挙の結果に影響を及ぼすものであり、従つて右第七投票区での投票は無効である。

(三)  本件選挙の行なわれた聖籠村は、特に浜地帯と呼ばれる網代(第六投票区)、次第浜(第七投票区)、亀塚(第八投票区)等においては、北海道、福島県、新潟市等への出稼ぎの漁民が非常に多い結果選挙に際して不在者投票手続によつて投票を行なわなければならない状況であるがこの手続をしないものがこれ亦多く、従つて投票率は非常に低かつたのである。ところが本件選挙においては不在者投票数が飛躍的に増加しこれに伴い投票率が増加した。これを本件選挙の約二週間前即ち昭和三十八年四月十七日施行の新潟県議会議員選挙のときに比較すると、右選挙の際の旧亀代地区における投票率は五十八・一一パーセントであるが本件選挙におけるそれは七十九・二四パーセントであつて約二十一パーセントの増加がみられ、また不在者投票数は、旧聖籠地区では二十二から五十三、網代地区では二から六十二、次第浜地区では一から百十六、亀塚地区では五から四十五と増加し、結局本件選挙における不在者投票数は全村で二百七十六票となり、前選挙に比し二百四十六票という驚くべき増加を示している。ところで不在者投票の手続は、公職選挙法第四十九条、同法施行令第五十条ないし第六十五条によれば、

(1)  不在者である選挙人は選挙の告示がなされた後、まず事業主等から適式の不在者投票事由証明書の交付を受けて本人の投票用紙及び封筒の交付請求書を添えて選挙人名簿の備付けられた選挙管理委員会に郵便で請求する。

(2)  請求を受けた選挙管理委員会は投票用紙、投票用封筒及び不在者投票証明書(管理委員長の封印をした封筒に密封する)を選挙人に郵送する。

(3)  これを受領した選挙人は、それを選挙人が滞在している市町村の不在者投票管理者に持参し、密封のまま不在者投票証明書を提出し、不在者投票管理者によつて選挙人の確認を得たうえ立会人の下で不在者投票を行う。

この投票は投票日の前日までになされねばならない。

(4)  不在者投票管理者は所定の事項を投票用封筒に記入したうえ、これを密封のまま選挙人名簿の備付けられた選挙管理委員会に郵送する。この封筒は投票日の投票締切時間までに各投票所の投票管理者のもとに届かなければならず、投票管理者は立会人をおいてこれを開封して投票箱に投入する。

という順序で行なわれなければならないとされている。従つて不在者投票手続は、選挙の告示の時から投票締切時までにその全手続を終了しなければならないのであるが、本件選挙は昭和三十八年四月二十三日に告示され、投票は同月三十日午後六時に終了したのであるから、その七日間に右の手続は終了しなければならないのである。然るところ、北海道と聖籠村間では郵送に片道三日を要するとされているから、前記の手続に要する一往復半の郵便送達にはどんなに早くても九日を要することとなり、右不在者投票期間中に投票を終了することは到底なし得ないことになるわけである。それ故に本件選挙における不在者投票数の増加は、替玉投票又は二重投票が行なわれるか、或は、その他の違法な手続の介在なしには起り得ないのであつて、かかる不在者投票手続の違法が、本件選挙の無効原因となることは当然のことである。

(四)  以上のうち(二)及び(三)の違法行為が本件選挙の結果に影響を及ぼす虞れのあることは次の事実に徴し明らかである。即ち第七投票区の有権者数九百六十八人のうち投票総数は七百四十五票であつたが、前記(二)の(イ)ないし(ハ)で述べた事由により、第七投票区での右七百四十五票は無効となり、また前記(三)で述べた事由により全村の不在者投票数二百七十六票は無効となるべきところ、本件選挙における当選者渡辺得司郎と次点者三神祐淳(立候補者は右の二名)の得票差は四百十一票であるから、前記投票が無効とされることにより本件選挙の結果に影響を与えることは明白である。

よつて請求の趣旨記載の判決を求めるため本訴に及んだ、と述べた。

(証拠省略)

被告代理人は、請求棄却の判決を求め、「原告等主張の請求原因事実のうち一、の事実は認める、二の(一)は投票所の告示番号が第十七号の二であることは認めるが、他は否認する、同(二)(イ)は、聖籠村選挙管理委員会が第七投票所の投票場所を亀代小学校次第浜旧分校と決めていたこと及び原告等主張の日時、場所において投票が行われたことは認めるが、右投票場所が前記管理委員会で定めた投票所でないとの点は否認する。(ロ)について右管理委員会が投票所の変更をしたこと及び右変更が公職選挙法に規定する投票所変更の要件に該当しないことは認めるが、その余の事実は否認する、(ハ)は否認する、(三)については本件選挙及び県議選挙における不在者投票数、投票率並びに不在者投票の手続は認めるが、その余の事実は否認する、(四)のうち第七投票区の有権者数及び当選者と次点者との得票差が四百十一票であることは認める、」と述べ、主張として、

一、村選挙管理委員会は、昭和三十八年四月二十二日本件選挙の各投票区の投票所、就中第七投票区の投票所を亀代小学校次第浜旧分校とする決定をなし、同月二十五日付告示第十七号の二を以つてその旨告示した。ところが前記管理委員会書記大浦斉は、投票管理者、立会人選任参会通知書並びに事務分担表に誤つて第七投票区の投票所を次第浜公会堂と記載した。それは右大浦が平素村役場吏員として村議会関係の事務に従事している関係で昭和三十八年三月頃村議会において亀代小学校次第浜旧分校を将来次第浜部落公会堂として使用させる旨決議のあつたことを知つていたことから亀代小学校次第浜旧分校は即ち次第浜公会堂と称して通用するものと誤解したことにより生じたものである。投票日の前日即ち四月二十九日午後三時頃から第七投票所事務従事者田村寅之助外一名は前記事務分担表の記載に従い次第浜公会堂に第七投票所としての一切の投票設備を設け、投票所入口附近に第七投票所と表示してある看板を立てた。四月三十日午前村選挙管理委員会では、第七投票区において誤つた場所で投票が行なわれていることを知り急拠投票所を同公会堂に変更する旨の決定をして即時これを告示した。亀代小学校旧分校と次第浜公会堂は約二百メートルしか離れていない近接した場所にあり、投票当日は変更された次第浜公会堂で朝七時から何らの混乱もなく投票が行なわれ、午後六時終了した。投票所変更のための棄権者はなく、有権者九百六十八人のうち七百四十五人が投票し、棄権者二百二十三人は出稼や勤務の都合又は病気等の理由で棄権したものである。要するに村選挙管理委員会がなした第七投票区の投票所の変更は公職選挙法の規定に反するものではあるが、選挙の結果に影響を及ぼさないから本件選挙は無効ではない。

二、本件選挙に替玉投票、二重投票がなされたとの原告等の主張は、本件選挙の実体を理解しない不当な主張である。前回の県議会議員選挙より本件選挙の方が投票率の高いのは、本件選挙が村長選挙であり村民にとつてより身近なためである。投票率の上昇は決して違法投票によるものではない。また不在者投票も公職選挙法及び同関連法令に従つてなされたもので違法の点はない。成程不在者投票は告示の日から投票日の前日までの間に投票するもので、告示前には不在投票はできないが不在投票用紙の請求が告示前にあることがあり、かかる場合は告示のあるまで保留し、告示後直ちに投票用紙を請求者に交付するので、告示日から投票日までの七日間に北海道等遠隔地への出稼者が必ずしも不在者投票ができないというわけではない、

と陳述した。

(証拠省略)

理由

一、原告等の請求原因一の事実については、当事者間に争いがない。

二、まず、投票所の告示が適法になされたか否かにつき判断する。

その原本の存在並に成立について争いのない甲第四号証の一ないし十七、証人大浦斉、同宮村盛義、同高橋盛次の各証言を綜合すると、新潟県北蒲原郡聖籠村選挙管理委員会は、昭和三十八年四月三十日施行の同村村長選挙に関し、同月二十三日告示第一号を以つて届出候補者の氏名等を告示したのを最初として、一連の必要事項につき告示をしたが、各投票区(第一ないし第九投票区)の投票場所については同委員会での決定に従い、同月二十五日付告示第十七号の二を以つて告示されたものであることが認められる。

もつとも原告等は、告示に枝番号が付されているのは告示第十八号の出された同月三十日以後になされた証左であると主張するけれども、前記高橋盛次の証言によれば、同月二十五日付の四つの告示案は事務職員によつて作成され原紙にタイプされていたところ、同日朝になつて前記村選挙管理委員会は、右のうち二つの告示案(「投票所の候補者名の掲載順序のくじを行う日時場所」の告示案と投票場所の告示案)の番号が共に第十七号と記載されてあるのに気付いたのであるが、右のいずれをも新番号に訂正することなく、投票場所の告示案の番号下に「の二」を付加して第十七号の二とし、もつてこれを告示したものであることが認められるから、右告示に枝番号が付されていることはその告示が適法になされたものであるとの前記認定を妨げるものではなく、他に叙上の認定を覆すに足る証拠はない。

よつて投票場所の告示が適法になされなかつたとの原告等の主張は理由がない。

三、次ぎに投票所でない場所で投票が行なわれたこと及び投票場所の変更が違法であることを理由とする原告等の選挙無効の主張について判断する。

本件選挙において聖籠村選挙管理委員会は、第七投票区(次第浜地区)の投票所を亀代小学校次第浜分校に設ける旨決定していたこと及び昭和三十八年四月三十日の投票日には右地区の投票は次第浜公会堂で行なわれたことは当事者間に争いがない。

前記甲第四号証の十五、成立に争いのない甲第五号証の一、二、証人大浦斉、同宮村盛義、同高橋盛次、同高橋正雄、同平野寅蔵の各証言を綜合すると、聖籠村選挙管理委員会では、前記のとおり第七投票区の投票所を亀代小学校旧次第浜分校と定めこれを告示していたが、同村吏員であり且つ選挙管理委員会の事務を担当していた訴外大浦斉は、次第浜分校校舎が昭和三十七年十月頃新築された際旧校舎が部落の公会堂として残されることになつたものと信じ、村民には旧分校というよりも公会堂といつた方が理解し易いものと安易に考え、選挙管理事務分担表並びに投票管理者、投票立会人等に対する選挙参会通知書に投票所の場所を次第浜公会堂と誤つて記載したため、第七投票区においては次第浜公会堂を投票所として選挙の準備が進められ、四月三十日の投票日には第七投票所と表示された公会堂において投票開始時より投票立会人その他投票管理に必要な正規の人的物的構成の下に投票が行なわれたこと、同村選挙管理委員会事務主任高橋盛次は、右投票日当日の午前十時前頃投票所視察のため旧分校に赴いたところ同所では投票が行なわれておらず公会堂において投票が行なわれていることを知り、急拠選挙管理委員長宮村盛義にその旨連絡したこと、右連絡を受けた選挙管理委員会は事情やむを得ないものと判断し、同日午前十時頃第七投票区の投票場所を旧分校より公会堂に変更する旨の決定をなし、即時その旨告示第十八号として告示したこと、及び、公会堂と旧分校間の距離は約二百メートルであり、投票所の変更のため投票に来た者が投票所にまごつくようなこともなく、投票は円滑になされたこと、以上の事実を認めることができる。右認定に反する証人田中文雄の証言及び原告渡辺権一の供述は、前掲各証拠と対比して措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、第七投票所における投票は、少くとも投票開始時より投票所変更の告示がなされる迄は、投票所でない所で投票が行なわれたものといわざるを得ず、また、投票場所の変更も公職選挙法第四十一条第二項に定める「天災その他避けることのできない事故に因り」変更したのではなく、従つてこの点において第七投票区における投票は違法であることを免がれないのであるが、右投票はその開始の時より公会堂を投票所として正規の投票管理組織の下において混乱もなく行なわれたものであり、然も比較的早期に公会堂を正式の投票場所としたこと、右の如き決定と実施に齟齬を来したのは事務担当者の過失に起因するもので、特段の意図の下に故意になされたものではなく、選挙管理委員会としては急拠投票所を変更することもまたやむを得なかつたことの事実に鑑みれば、前記の違法性は転微であつて本件投票場所の変更が選挙人の投票内容に影響を与える虞れがあつたと認め得べき事情もないから、同投票所での投票はすべてこれを有効と解して差しつかえないものと認められる。また前記認定事実に徴すれば、投票場所の変更(事実上の変更と正式手続による変更)により選挙人をして投票を不可能ならしめもしくは断念せしめたものとは認め難いばかりか、仮りに同投票区における棄権者二百二十三人(有権者が九百六十八人、投票者が七百四十五人であることは当事者間に争いがない)が右投票場所の変更により棄権するのやむなきに至つたものであり、且つ、投票の際次点者三神祐淳に投票すべきものであつたとしても、当選者渡辺得司郎と右次点者との得票数の差が四百十一票であることは当事者間に争いがないから、選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあるものということはできない。

よつて投票所でない場所で投票が行なわれたこと及び投票場所の変更が違法であることの故を以つて右投票を無効とし、これを前提に本件選挙が無効であるとする原告等の主張は理由なきものといわざるを得ない。

四、次いで、第七投票所における投票の際選挙人名簿との対照及び確認の手続がなされなかつたとの主張につき判断する。

証人大浦斉、同高橋正雄、同高橋平四郎、同平野富蔵の各証言を綜合すると、第七投票所たる公会堂においては、投票のため来場した者についてまず受付(係員高橋平四郎他一名)で選挙人名簿の抄本と照合し、次いで名簿対照係(係員高橋正雄)で持参した入場券と選挙人名簿とを対照して本人かどうかを確認した上入場券と名簿とに割印を押捺し、さらに隣の投票用紙交付係で投票用紙を交付する仕組になつていたこと、当日投票のため来場した選挙人の中には自己の入場券と共に他の選挙人の入場券を受付係に提示した者も二、三あつたけれども、いずれも受付係で返戻され、自己の入場券を所持した選挙人に対してのみ選挙人名簿との対照、確認が行なわれ、その上で投票用紙が交付されたものであることが認められる。右認定に反する証人大図俊朗、同黒川雅順、同田中文雄の各証言及び原告渡辺権一の供述並びに甲第五号証の二の記載内容は前記各証拠と対比してたやすく措信できず、甲第三号証の一ないし三も同号証が原告等主張どおりの写真であるとしても、これをもつて右認定を左右するに足るものではなく、他に前記認定を覆し、右投票所において不正投票が行なわれたことを認め得べき証拠はない。

よつて原告等の右の点に関する主張は理由のないものである。

五、さらに不在者投票が違法になされたとの主張につき判断する。

不在者投票が公職選挙法の規定に従つて行なわれなかつたとの点についてはこれを認むるに足る証拠がない。従つて右手続は適法になされたものと推認せざるを得ない。

原告等は、昭和三十八年四月十七日施行の新潟県議会議員の選挙に比し不在者投票数が全村で二百四十六票も増加した(この事実は被告も認める)のは不在者投票が不正に行なわれた証左であると主張するが、本件選挙が村長選挙であつて選挙人にとつては県議の選挙よりも一層身近な、利害関係の多い選挙である事実に徴すれば、不在者投票数がかなり増加したこともあながち首肯できないわけではないし、また、告示日から投票日までは八日であることも明白であるが、当時の不在者の居所、郵便事情、用紙請求の遅速等により異りはしても、八日間では不在者投票は絶対不可能というわけでもないと認められないわけもないのであるから、右事実を以つて直ちに不在者投票に不正があつたとまで推定することはできない。

してみれば他に選挙につき不正のあつたことの具体的事実の主張及び立証がない本件では被告のなした裁決は相当というべきであるから原告等の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 加藤隆司 安国種彦)

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